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そんな、自分を許してしまえる時間感覚。それが風景と結ばれた時

ひとみょん

日本文化学科教員

タイトル 中原中也詩集
著者 中原中也
詩人中原中也の詩集『山羊の歌』と『在りし日の歌』に収録された作品と、その他未完詩篇を含む岩波文庫版(大岡昇平編)。その中から「いのちの声」(『山羊の歌』に収録)という詩を選びました。詩作品の「概要」を説明するのはすごく難しいのですが、逆に詩ですので、ここでは最後の一節を紹介しておくことが「概要」になるのではないかと思います。 ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於て文句はないのだ。 中原中也という夭折した詩人の「破格の人生」について、是非調べてみてください。

朝の目覚めの瞬間に、「ん?今日は自分の思い通りに時間を使っていいんだ!」って、全身で伸びをする瞬間の幸福な感じってわかりますか?「仕事?しなくていいんだ!」「メール?ほかっておこう!」「本?好きなだけ読んでいいんだ!」「掃除?やろうじゃないか!」…多分、わかりますよね。あ、掃除は違うかも(笑)。

そんな、自分を許してしまえる時間感覚。それが風景と結ばれた時の「束の間の自由」のような幸せ感がここにはある、と思ってこれまでも何度も読み返してきて、そして、このコロナ状態だからこそもう一度刻まれた言葉。

ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於て文句はないのだ。

「万事に於て文句はないのだ。」-そんな瞬間って、これまでの人生でどれだけ感じてこられたんだろう?

「僕」にとっては、「海って、なんでこんなふうにいつまでも眺めていられるんだろう?」と思いつつ、それでもいつまでも眺めている時の不思議な幸せ感がそれ。あ~、「海」は贅沢すぎますね。「埼玉には海がない」わけですから。でも、この7か月の間、毎日のように近所を散歩する時に「空の下で、身一点に感じられ」た瞬間っていうのがあったことを、ここに書き留めておきたいと思います。

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