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実はもう既に誰かと繋がってきているんだから、まぁ安心しなさい

memento

職員

タイトル 手から、手へ
著者 詩: 池井昌樹 写真: 植田正治 企画編集: 山本純司
写真集のような… 詩集のような… 絵本のような…  写真は、シュールレアリスムの絵画的に、白と黒の時代の狂気や「もののあはれ」をも孕んだ陰翳を持ち、無音で広く透きとおる世界の中、淡々とゆっくりと流れてゆく時空(とき)を超越した家族の風景  詩は、その映像の背後から静かに湧き上がって、全てをやわらかに包み込みながらも、矢のように真っ直ぐ心を射貫く「次に手渡す強く大きく静かなことば」の数々

この本は、震災後、生き様や職務上で進むべき方向性を見出すために右往左往していた時期、ある書店でふと目にして、その表紙の空気感に吸い寄せられて思わず手に取った、当時出版された写真と詩による薄手の絵本です。

本屋で立ち読みをしながらそれらの映像と言葉に触れた瞬間、私は誰かに魂を鷲掴みにされ揺さぶられた感覚、私が人生で経験してきた様々なことの積み重ねが全てその瞬間に一点に凝縮され、過去に繋がってしまったような感覚に襲われ、何かとんでもないシロモノに出会ってしまった空恐ろしい思いがして、慌てて本を閉じたのでした。

当然、大きなとまどいやためらいもあって、その日はこの本を買うことはありませんでした。

そしてその後も、当時は未だその時の感覚について自分なりに心の整理がつかずに、書店などで再度探すことは避けていました。

しかし何故かその経験以来、生前は深く話す機会をあまり持てなかった私の父母や兄、そして祖先達の、少ないけれど確かに聞いて覚えている言葉の数々、彼ら彼女らの生き様と彼らが生きた常夏の島の光と影の世界、そしてその先にある世界に自分が繋がっている感覚が常に頭の中のどこかにあり、心の中で時折、彼らと会話をしようとさえしている自分が、いつの間にかいるようになってしまっていました。

そして2年前の4月、某テレビ番組の中で、ある本屋さんが勝手に本を選ぶ「一万円選書」の中の一つとして、再度この本に“遭遇”(邂逅?)することになってしまい、ミーハーながら気持ちの上でその番組の後押しもあり、ある意味観念をして手にすることにしたのでした(苦笑)。

このコロナの不・透明な状況の中、私たちは外側の世界で人や社会、そして自然との真の繋がりを渇望して、日々、右往左往しています。

しかしこの本は、「内側の世界では、実はもう既に誰かと繋がってきているんだから、まぁ安心しなさい」と、私たちの肩をたたきながら、“とても唐突に”、力強く、そしてやさしく、「スチール写真」と「言葉」のチカラで教えてくれ、そこから私たちは何故か不思議なやわらかい安堵感を味わうことになります。

私にとってはしかし、いきなりガツンと一発殴られて、「これ絵本だよな…」と思いながらも、生きる覚悟と希望、誰かがいつも“確実に”一緒にいてくれていると感じる“根拠のない”自信、そして親である覚悟と責任感、などなどをいつの間にか“勝手に”私に与えてくれようとする本であり、薄いのでいつも持ち歩きながらも、またぶん殴られそうなので、おいそれと軽い気持ちでは開くことができないやっかいな本…でもあります。

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