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「答え」なんてないことばかり

おおきなきのしたで

2003年人間福祉学科入職

タイトル ネガティブ・ケイパビリティ〜答えの出ない事態に耐える力〜
著者 帚木蓬生
 本書は精神科医であり小説家である筆者が、「ネガティブ・ケイパビリティ(答えの出ない事態に耐える力)」という言葉との出会いから、言葉の起源となった詩人であり医学者でもあるキーツの生涯、そして精神科医ビオンによって再発見された経緯を丁寧に追ったのちに、筆者とこの言葉をめぐる脳、医療、身の上相談、文学、教育を巡ってエッセイ風に書かれています。私たちはいかに常に「答え」を求め、また求められているか、しかしながら実生活は答えのないことばかりであることに気づかされます。それらに耐える力を知ることによって私たちはもっと楽に生きれるのではないかと気付かせてくれる一冊です。

コロナ禍にあって、私たちはどうすることもできないことばかりに直面していました。しかし、一方でどうすることもできない事態の中で、多くの「正しい」と思われる判断を求められ、あたかも「答え」があるかのような議論を繰り返していたように思います。

私個人の暮らしも一変し、ほとんど家にいることがなかったのですが、毎日家にいなければならない生活へと変わりました。もともと筋金入りの出不精を自覚しており、家にいることは全く苦にならないので性分の私ですら、生活のペースがつかめない日々は、静かに音も立てずに不安が積み重なっていきました。これまでは考えるまでもなく、用事(仕事)があって、出かけなければならないから朝必要な時間に起きていたのですが、特に出かける用事もなく、やることはたくさんあるのですが、今日すぐに提出しなければならないものが日々あるわけではなく、朝、何時に起きるべきか?起きてまず何をしたらいいのか?など、今まで考えることもなくやってきたことの一つ一つが、なんだかぎこちなくなりました。

なんとかペースをつかもうと、人生初めての「散歩」を始めました。自然を求めて歩き、木々のざわめきに耳をすまし、大きな木の下で深呼吸、突然降り出す雨に打たれるままに歩きました。コロナ禍において、自然の偉大さと共に人間の無力感を実感したかったのかもしれません。

自然に身を置きながら、ふと、以前に読んだ「ネガティブ・ケイパビリティ」を思い出し、読み返したのが本書でした。「答えがないこと」が多くあることを改めて知ることで、どこかほっとしました。「答えを出さなければ」という気持ちがいつの間にか追い詰めていたような気がします。そして、「答えがない事態に耐える力」「踏ん張る力」が今こそ問われているのだろうと思い、それは私だけではないことだと思えたときに、ふっと肩の力が抜けて、楽になったのです。

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