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心の鎖国を解き放つ

清水正之

聖学院大学 学長

タイトル 鎖国―日本の悲劇
著者 和辻哲郎
太平洋戦争の敗北によって「実に情けない姿をさらけ出した」日本民族の欠点―「科学的精神の欠如」―への反省の試みとして企てられた壮大な歴史的考察。新航路・新大陸発見による「世界的視圏の成立」という大きな歴史的展望の中で、西洋近代文明との出会いを自ら鎖した日本の知的悲劇が活写された名著。(Amazonより)

無人島にもし一冊しか本を持って行くことができないなら、どの本を選びますか、という定番の問いがあります。本好き人間にはあり得ない問いとは思いませんか。一冊しか許されないのであればそもそもそんなところへ行きません。

さて若い世代に読んでみたらと薦めるとしたら『レ・ミゼラブル』(V.ユゴー)、『塩狩峠』(三浦綾子)のような骨太の人間形成物語を挙げたいところです。しかし今日は、現代日本の社会的環境の中に滲み出る排他性や過度の日本文化礼賛に水をかけ考えさせる書物とします。

『鎖国―日本の悲劇』(和辻哲郎)は16世紀の日本がどの様な世界的状況のなかにあったか、西洋文明(キリスト教等)の伝来がもつ意味を丁寧にさぐり、鎖国政策が日本のありえた可能性の何を阻害し、どの様な社会を形成し、近代のあの敗戦という事態にまで至ったかの遠因までを論じたものです。倫理学者和辻哲郎は、保守の思想家というイメージが強いですし、鎖国政策の捉え方については最近の研究が新たな見方をしていますが、この書の意味は今むしろ高まっています。

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