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人は「個」を尊重されても、それだけでは生きられない

ケイ

職員

タイトル レダ
著者 栗本薫
ファーイースト30―すべての人間が尊重され、社会秩序を乱そうとする者ですら“紊乱者”と分類されて、その存在を容認されている理想社会。人々は適性や好みに応じて様々なギルドに属し、自由を謳歌しているかに見えたのだが…。ある日、少年イヴはレダに出会った。銀色の髪と小枝のような肢体、そして風のように自由なレダの魂に、イヴは翻弄されながらも魅了されてゆく。しかしイヴは、この運命の出会いがファーイースト30の未来を決定することになるとは夢想だにしていなかった。理想社会に潜む矛盾と人間のあり方を描く、未来SF問題作。 (Amazonより)

この作品は、科学が発達した未来社会が舞台です。
人々は人工授精によって生み出されたフラスコベビーであり、あらゆる選択肢を与えられて育ちます。個人の選択が最大限に尊重される一方で、友情や恋愛などは申請が必要なシステムとして確立されて、人と人とが極度に分断されています。当然、「家族」という概念もありません。
人々は恋をすることで傷つくことはないけれど、恋をすることで得られる原始的な喜びも知ることはないのです。

「レダ」は一度中学生くらいの時に読んだはずなのですが、当時はただただ圧倒されて、正直なところ「強烈な作品だな」という感想しか出てこなかった記憶があります。
この度「Bookyard」に参加するにあたり様々な本を読み返す中で、本棚から久しぶりに引っ張り出してみました。

「レダ」を大人になった今読み返してみると、当時はわからなかったことが理解できたり、新たな発見があったりしました。
また、コロナ禍で人と人との繋がりが希薄となりつつある今だからこそ「こんなに深い物語だったなんて」と感じ、さらに圧倒されました。

1980年代の作品のため、時代に即してないのではと感じる点もあります。
しかし、自分とは何かという疑問や、人との繋がりの重要性を突き付けられているだろう現代人にとって、大きな影響を与えてくれると思う点も多々あるのです。
実際に物理的な分断がなされてしまった”今”だからこそ、自分について考え、自分の世界を広げ、人と繋がることを考えてほしいと願います。

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